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【エッセイ】NIHU北東アジア地域研究事業・国際シンポジウム「安全保障の視点から考える移民・難民と環境問題」開催報告

2017年10月29日(日)に東北大学川内キャンパスで、国際シンポジウム「安全保障の視点から考える移民・難民と環境問題」が開催された。本シンポジウムは、NIHU北東アジア地域研究推進事業・東北大学東北アジア研究センター拠点と北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター拠点の共催で行われた。二つのセッションと全体討論から構成され、約50名が参加した。 

第一セッション「北東アジアにおける移民・難民問題」では岩下明裕(北海道大学)が司会を務め、池直美(北海道大学)、三村光弘(ERINA)、福原裕二(島根県立大学)、セルゲイ・ゴルノフ(九州大学)が報告を行った。報告者はそれぞれが専門とする北東アジアの国・地域において、移民が安全保障問題に与える影響を論じた。池報告では、10年にわたって行われた中国、韓国、フィリピン、ベトナムの女性へのインタビュー調査から得られた知見が発表された。池は、三人の女性の「結婚移民」としての体験と、日本と韓国における「家事・介護労働者」に関心を抱いている。彼女はどちらの社会もこうした女性らの人権を守ることができるはずであると主張した。三村・福原報告も、モンゴルの建設現場で働く北朝鮮人男性たちと、彼らの雇い主たちへのインタビューに重点をおいたものであった。三村は、福原の綿密なフィールドワークの細部のコンテクストを説明し、これらの労働者の経験をモンゴル―北朝鮮関係のフレームワークの中に位置づけた。この報告は、労働者たちの経験がいかに国際政治 ― 特にアメリカがモンゴルに及ぼしている北朝鮮への支援の削減を求める圧力 ― の影響を受け始めているかを示してくれた。

三番目のゴルノフ報告は、現地のメディアで報道されるロシア人の政治家と官僚の発言を考察した。ゴルノフ教授は、ロシアでの中国系移民に関する認識が、「警鐘主義」と「功利主義」の両極の間に存在することを明らかにした。一方では中国系移民に対して安全保障上の脅威として批判的なビジョンをもつ政治家がおり、他方では、実利主義的なアプローチをとり、こうした移民を経済的恩恵とみなして奨励するのを厭わない政治家もいる。彼は、中国の経済が強力になってゆくほど、中国人にとって移住を行う動機は乏しくなるという見解で締めくくった。さらに、より高い賃金に惹かれるなら、ロシア人にとって中国への移住はより魅力的になってゆくとも述べた。コメンテーターの朴鍾碩(九州大学)は、パネリストと参加者に向けていくつかの新しい重要な視点を提示してくれた。そのなかには、女性移民の議論における「仲介者」の役割や、北朝鮮を語る際に用いられる用語に対する問いが含まれた。

第二セッション「移民・難民と環境問題」では、明日香壽川(東北大学)が司会を務めた。最初の報告者ニナ・ホール(ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際研究大学院ボローニャ校)は、国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)や国際移住機関(IOM)といった国際組織が、気候変動による移住の課題に取り組む際、いかに与えられた権限を活用してきたかについて述べた。第二報告は、ジョン・キャンベル(ニュージーランド国立ワイカト大学)がキリバスの住民が直面している気候変動がもたらす危機についての自身の調査を紹介した。かつての植民地宗主国である英国はキリバスの人々に負っている責任をもっと自覚すべきだというキャンベルの見解は、報告の中心ではなかったものの、参加者の関心を引いた。最後の報告者であるブノワ・メイヤー(香港中文大学)は、移住をもたらす個々の要因として気候変動を議論するよりも、大学人や政策立案者は「気候移民の連鎖性」について考えるべきだと主張した。メイヤーは国際法の例を引きながら、気候変動とは、移住をもたらす多数の要因のうちの一つであり、それらは複雑に絡まりあい、個別に分離することが不可能なものであることを検証した。セッションはオノ・ケンタロウ(在仙台キリバス共和国名誉領事)のコメントで締めくくられた。彼は大学人らに対して、キリバスの人々に対して「気候難民」というレッテルを張らないでほしいと主張した。そして代わりに、「尊厳のある移民」を強調する新しい用語について考えを巡らすよう促した。

二つのセッションに続き、シンポジウムは全体討論で締めくくられた。オノ氏の主張を出発点として、いかに日本における難民に対する無知を克服すべきかという議論が起こった。より具体的には、ある留学生が、政策立案者はバングラデシュのような資源が限られた国の人々に対して何ができるのかと問いかけた。パネリストたちは、単純な解決方法はないにしても、移民を特定の安全保障問題としてのみ捉えるあり方に警鐘を鳴らした。シンポジウムのタイトルが「安全保障の様々な視点(security perspectives)」を強調しているように、移民と難民に対する人道的なアプローチの重要性を喚起することが歓迎された。 (ジョナサン・ブル/上村正之 訳)