【エッセイ】Association for Border Land Studies 第2回世界大会
ボーダースタディーズの世界大会がウィーンで2018年7月10~12日、続いてブタプストで7月13~14日の日程で行われました。筆者は、ウィーン大学法律学部を擁するJuridicumにおいて行われた初日の8時45分開始の第1パネルで報告を行いました。
パネルのテーマは「Precarious Borders」。文化を扱ったトピックが集まったグループになりました。第1報告者はコロンビア大学のザン・ホルトという若い研究者で、「Walling off the Abject: Żuławski’s Possession as Border Horror」と題してアンジェイ・ズラウスキー監督の映画『ポゼッション』に現れる、ボーダーの表象について美学的な読み解きをする報告が行われました。『ポゼッション』に表されているボーダーとは、壁によって二項対立を創出し相手方を排除しようとするものではなく、ボーダーそのものがAbjectであり、排除されるべき対象なのだというユニークな見解を述べていました。
筆者は第2報告者として「Borders in musical arts: a comparison of the cases of the Tchaikovsky Memorial Tokyo Ballet School and the West-Eastern Divan orchestra」(当初の予定題目から変更)において、冷戦構造を背景にしたチャイコフスキー記念東京バレエ学校(1960-1964)の設立の経緯と、1999年に創立され現在も活躍中のウエスト=イースタン・ディヴァン・オーケストラの事例を比較し、音楽芸術がボーダー地域において果たす役割について考察しました。ダニエル・バレエボイムが率いるディヴァン・オーケストラの事例に取り組むことになったのは、パネルのオーガナイザーであるシルヴィア・ミエシュコウスキ女史(ウィーン大学)の提案によるもので、本来はバレエ史を専門としている筆者にとっては新しい挑戦になりました。報告後には、親米体制の中でソヴィエト・バレエが日本で熱狂的に受け入れられた理由についての質問がなされ、改めて考えるきっかけとなりました。
第3報告者のライデン大学のマチュー・ロンゴは近刊自著『The Politics of Borders: Sovereignty, Security, and the Citizen after 9/11』の紹介を行い、第4報告のラナ・マックドネル、サンタ・バラザ(両者ともテキサスA&M大学キングスヴィル校)は、「Texas Borderlands: The Iconography of Resistance to Assimilation and Narratives of Mothers Behind Bars」と題して、自身が少数民族の末裔であり、画家、活動家であるというバラザの画業について報告しました。抵抗の女戦士たちを扱った色鮮やかな作品の数々は、心に強く訴えるものがあり、これらのコピーは会場ロビーにも展示されていました。
(斎藤 慶子/北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター)