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【開催報告】NIHU北東アジア地域研究事業合同シンポジウム/北大拠点セッション(2018年9月22日)

 

2018年9月22-23日に、国立民族学博物館(吹田市)で人間文化研究機構基幹研究プロジェクト「北東アジア」(平成28年度―平成33年度)に参画する6拠点による合同シンポジウムが開催された。 プログラム詳細はこちら

 北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター拠点は、初日の第二セッションで”Rethinking the Northeast Asian Community”(北東アジア共同体論の再考)というパネルを行った。パネリストは全員拠点メンバーで、堀江典生(富山大)が司会を務め、ディビッド・ウルフ(北大)、田畑伸一郎(北大)、泉川泰博(中央大)の三名が歴史、経済、国際関係論の見地から報告を行い、拠点リーダーの岩下明裕(北大)がコメントをした。

 ウルフ報告”In Search of Northeast Asia’s Least Common Denominator” は、Lucien PyeがAsian Politics and Power (1985)のなかで提唱した「地域の政治文化」という概念に基づき、地域政治の最小共通分母としての、北東アジアの政治的特徴と実践について検討することを課題とした。とくに、(1)統治体制:民主化以前のこの地域の政治主体は王朝や帝国であり、現在も安倍晋三、習近平、金正恩の三人の指導者は統治者の家系に生まれ、統治にその影響がみられる。(2)汚職:ロシアを含む北東アジア諸国の共通点としての汚職のメカニズム、(3)人質(hostage-taking):徳川幕府の参勤交代制、北朝鮮による日本人拉致事件のように、「人質」を政治的手段として用いる文化、の三点を議論した。

 田畑報告”Advancing Economic Integration in Northeast Asia over the Past Three Decades”は、(1)過去30年の期間に日本、中国、韓国の間でどの程度経済統合が進展したのか、(2)この期間に日中韓とロシアの経済関係を前進させた要因は何か、の二点について貿易統計データを分析して議論した。結論では前者について、日中韓の経済統合は2000年代半ばまで急速に進み、とくに産業内貿易の統合が顕著であった。しかしそれ以降、経済統合は少しづつ停滞している。これらの推移の要因として中国の役割を指摘した。(2)について、ロシアと北東アジア諸国の経済統合は1980年代から現在までの間に大きな変化を遂げた。日中韓の間の貿易と比較するとロシアとの貿易ははるかに小さい。しかし、ロシアは石油・ガスの主要な供給国として、また異動者および電気機器の輸入国として、北東アジアに参入したことを認識すべき、と指摘した。

 泉川報告”The Trump Shock ans Its Impacts on Regional Integration in Northeast Asia”は、北東アジア地域における米国の役割について、(1)トランプ政権が東アジアの地域主義に及ぼす影響、(2)歴史的観点から見るトランプ政権の影響、(3)北東アジア地域の機能の可能性、の三点を議論した。経済的相互依存は地域の制度化にとって重要な要素であるが、それ自体のなかで地域の制度化が進むわけではなく、米国のリーダーシップは重要な要素だとした。また、現在の価値や規範の共有を欠いたままの東アジア地域主義を19世紀の「ヨーロッパ協調(Concert of Europe)」に例えて説明した。

 司会およびコメンテーターからは、次のような指摘があった。北東アジアというサブリージョンを超えて、グローバル・アクターとなった中国の影響をどのように理解するのか。域内の相互学習の過程で、戦略的パートナーシップやメディア・コントロールなどより多くの政治文化の共通点が生まれている。これらは「ユーラシア」の共通項でもあり、北東アジアとどう区別するのか。トランプ政権下での朝鮮半島情勢の変化や米中貿易紛争により、韓国や日本はより行動の選択肢が増え、新たに「北東アジア」域内の相互依存が深化しているのではないか。この方向性をユーラシアのなかでどう定義していくべきか。 

会議全体の詳細は、後日NIHU Magazineとして人間文化研究機構のウェブサイトで配信される予定である。

(2018年10月30日更新/文責:加藤美保子)