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島根県立大学北東アジア地域研究センター拠点スタートアップ会議開催

2016年6月17-18日 文責・天野尚樹

 

 本事業を構成する拠点のひとつである島根県立大学北東アジア地域研究センター(NEARセンター)主催のスタートアップ学術会議が2016年6月17~18日、島根県浜田市の同大学で開催された。拠点間の連携を重視する観点から、本スラ研拠点からも福原裕二(NEARセンター)、天野尚樹(山形大)が参加した。

 会議には、NEARセンター拠点代表の井上厚史(NEARセンター長)をはじめ、以下の拠点メンバーが参加した。井上治、李暁東、石田徹、前田しほ(以上、島根県立大)、岡洋樹(東北大)、波平恒男(琉球大)、エドワルド・バールイシェフ(筑波大)、王中忱(中国・清華大)、黄克武(台湾・中央研究院)、娜荷芽(中国・内モンゴル大)。また、同拠点と共同で事業を推進する国際日本文化研究センターから小園晃司が参加した。

以上のメンバーをみてすぐわかるように、同拠点の特徴はメンバーの国際性豊かなことである。今回は出席しなかったが、ソウル大(韓国)や東北師範大(中国)からも研究者が加わっている。

 NEARセンター拠点の研究テーマは「近代的空間の形成とその影響」である。同センターが培ってきた研究実績や、研究者のネットワークを生かした問題設定がなされている。すなわち、国境や植民地で分断される近代以降とは異なって、北東アジアがある程度の一体性をもちえた前近代の歴史をまず研究の出発点とする。そして、その地域秩序に変容をもたらした西ヨーロッパ諸国や、ヨーロッパであると同時に域内アクターとしても進出するロシアからのインパクトを受け、北東アジアという空間にどのような「近代」がもたらされたのかが、事業の中心テーマとなる。
 
今回のスタートアップ会議では、各メンバーの自己紹介の後、鍵概念となる「近代」とは何か、あるいは、「北東アジアの近代」とは何かについて、長時間の活発な議論がおこなわれた。地域秩序や国際関係の観点からみた場合、「近代」のモデルは「(西)ヨーロッパの近代」であり、具体的には「国際法に制御される主権国家間関係(ウエストファリア体制)」であることは容易に共通認識が得られた。では、「北東アジアの近代」として剔出される独自の要素は何か、となると答えを見出すのは困難である。いわゆるウエスタン・インパクトの影響を前提とするが、一方的な受容ではなく、アジアの側からの読み替えにより、モデルの変容が各国でみられたことは理解される。しかし、ではその具体的な形はとなると、今回の議論で共通認識を得ることはできなかった。

 いうまでもなく、「北東アジアの近代」を剔抉てっけつするのは困難で大きな課題である。NEAR拠点事業は、このテーマに答えを見出していくことを目標に進められていくことが今回の会議で確認された。

 統合よりも分断が強くみられる北東アジア地域の協力関係の可能性を模索する本拠点事業にとって、一定の共通性をもちえた歴史的経験を出発点とするNEAR拠点事業の研究テーマは重要なヒントを提示してくれるだろう。今後もさらなる連携を進めていきたい。