UBRJ / NIHU セミナー「「中露国境地域の経済交流 実態をみる:国境の町・綏芬河のいま」開催
2016年6月23日 文責・地田徹朗
2016年6月23日(木)、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターにて、福島大学の朱永浩先生をお迎えし、「中露国境地域の経済交流実態をみる:国境の町・綏芬河のいま」と題するセミナーが開催されました。平日の16時半からという時間帯にもかかわらず、約30名という多数の来場者がありました。冒頭、中国黒龍江省の中ソ国境地域出身の朱先生より、ソ連時代に末期に国境で実際にバーター取引に駆り出されていたという幼少期の体験が現在のテーマでの研究に繋がっているとお話があり、その後、現在に至るまでの中露国境の街・綏芬河での経済交流と物流の実態の通時的変化について、多くの写真と共に解説をしていただきました。
綏芬河市を含む中国東北部の対外貿易額はロシアが半数以上を占め、特に、輸入額については木材や鉱物資源・肥料を中心に9割に届く勢いという説明がなされた後、現在の綏芬河市での国境物流の実態について説明がありました。かつては、中露国境を個人が跨いでモノのやり取りを行う、いわゆる「担ぎ屋」によるモノの流れが非常に盛んでしたが、ここ数年の間にその数が激減している。綏芬河市に中国大手ネットショッピング企業であるアリババ社のロシア向け発送商品の集積所が整備され、綏芬河からロシア領に商品を運び込んで、現地企業がロシア郵便と提携して発送を行っている。近年は、綏芬河に至る道路・鉄道などの物流インフラが徐々に近代化され、遠隔地からの鉄路や道路での物流が円滑化されるようになってきている(と同時に、まだ課題もある)。綏芬河を起点としてモノをウラジオストクまで運び、そこから航路で韓国や日本に輸送することが構想されており、釜山までの物流の実験も行われている。以上のようなことについて詳細なご説明いただきました。そして、日本企業もこの北東アジア国境地域での物流に参画する千載一遇のチャンスが目の前にあるにもかかわらず、マルチリンガルな現場で物流を動かせる人材が日本で育っていないため、参入障壁が現段階では非常に高く、日本が乗り遅れているという耳の痛い実情についても説明がありました。
本セミナーは、UBRJが仕掛け役となっている本年9月に実施予定の中ロ国境ツアーのプレ企画の意味合いもあり、ツアーに参加する方にとっては貴重な事前学習の機会となっただけでなく、ツアーに参加しない方々にとっても急速な変化・発展を遂げている北東アジアのゲートウェイたる綏芬河の実状を知るまたとない機会となりました。たいへん興味深いご報告をいただいた朱先生に感謝いたしますと共に、ご来場いただいた皆様に心より御礼申し上げます。