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【エッセイ】阿寒湖畔に遊ぶ(視察報告2017年6月末)

早朝の阿寒湖水上。風を切りながら遊覧船は進む。右手に雄阿寒岳、左手に雌阿寒岳、その両方を同時に見られるのは阿寒湖を走る遊覧船からだけなのだと添乗の語り部が言った。この日はあいにくの曇り空で雌阿寒岳は雲に隠れていたが、雄阿寒岳は太陽を背負いながらその雄大な姿を見せた。行先は、阿寒湖にぽっかり浮かぶチュウルイ島。阿寒湖でまとまった数のマリモを見られるのは、この島にあるマリモ展示観察センターだけなのだ。

展示観察センターはけして大きな施設ではないが、いくつもの水槽が並んでいてマリモの成長過程を実物で見られるようになっている。岩に生えた苔のような状態から、まんまるい形へ、そして最後は内側から崩れていた。直径約30センチを超えると崩れ、ふたたび丸くなる過程に突入するそうだ。完璧な丸が一部崩れている様子は、予期していなかっただけにちょっとした衝撃だった。

もう半世紀以上前のことになるが、日本のバレエ学校に招聘されたソヴィエトのバレエ教師たちが、マリモにまつわる創作伝説を題材にしてバレエを創った。愛し合う2人のアイヌの悲恋物語だ。教師たちは阿寒湖畔と旭川を訪れて、古式舞踊を8ミリカメラに収めるなどして取材し、出来上がった作品には民俗舞踊がふんだんに利用されていた。

彼らが阿寒湖を訪れたのは1961年。ちょうど、水質汚染が原因で減少していたマリモ保護のため、チュウルイ湾への遊覧船乗り入れ自粛に伴い、島にマリモ観察施設ができた年だった。それまでは遊覧船に乗ったまま、湖の水中のマリモを観察できるようになっていたそうだ。ソヴィエトの教師たちがマリモを見たのが水中なのか、水槽だったのか、それはわからない。

ただ、水槽の中の動かないマリモを見ながら、私は思い出したことがあった。ソヴィエト教師たちの作ったバレエ『まりも』でヒロインのセトナを演じた鈴木光代さんに数年前にお話を伺ったときのことだ。鈴木さんが主宰するバレエ教室で、石井歓作曲の『まりも』の音源をかけさせていただいた。すると、鈴木さんは私の目の前で踊り始めたのだ。

ゆらゆらと美しく揺れる鈴木さんの腕は、水中のマリモはきっとこんなふうにゆらめくに違いないと思わせる説得力があった。音楽に心を寄り添わせて無心に踊る鈴木さんの姿の後ろに、阿寒湖の景色が広がっているかのような錯覚を覚えた。ソヴィエトの教師たちは波に揺れるマリモたちを見たのだろう、と今ではそう思われる。

 

斎藤慶子