根室セミナー「外国人若手研究者が考える日露関係:北方領土・漁業問題を中心に」開催報告
2017年9月21日、「外国人若手研究者が考える日露関係:北方領土・漁業問題を中心に」(本拠点主催)が根室市の北海道立北方四島交流センター・ニホロで開催されました。祭りのシーズンの最中、平日木曜日の開催であったにも関わらず、約50人もの来場があり大盛況となりました。
本セミナーは冒頭で、開催に向けてご協力を頂いた根室市役所の織田敏史北方領土対策参事から、報告者である北海道大学院文学研究科博士課程のアゼルバイジャン人、アリベイ・マムマドフ(28)とフランス出身のファベネック・ヤン(32)をご紹介頂きました。
第1報告者のマムマドフは、日本とロシアで60年以上も懸案となっている「北方領土問題」及び最近焦点となっている日露の共同経済活動の可能性について両国の専門家の様々な意見を紹介しました。マムマドフは、経済援助をロシアに「食い逃げされる」日本側の懸念、島とそこに眠る天然資源を日本に「食い逃げされる」ロシア側の懸念、さらに両国間に根強い「不信の構造」が存在していることを指摘し、領土問題解決を目指す上ではそれらを払拭・克服するため双方が互いに一歩踏み込む必要があると述べました。ロシアと中国の国境問題解決を参考的事例に、日露の経済活動の実現を通じて「北方領土問題」を肌で感じる日露住民の間で政治問題の解決に必要な「相互信頼」が生まれ、島における日本の存在強化が生まれるという前向きな見識を示しました。
第2報告者のファベネックは、2014年、ロシア側によって突如、宣言された流し網漁禁止が、ウクライナ危機をきっかけとして欧米諸国が課した経済制裁に対するロシア側の農水産物輸入の禁止が発端であると説明しました。対象国からの輸入禁止の「穴埋め」を目指すため、自国の農産・水産業の生産力強化が重視され、国内市場へのサケ・マス供給問題を巡り、ロシア極東地域において有力生産地であるカムチャッカ地方が抱える漁業関連の課題を解決する必要があったというのがその理由です。これに伴い、北極航路の活用のための環境整備、カムチャッカ地方の漁船団の操業環境の改善、サケ・マスの有害漁法とされた流し網漁禁止による資源保護というパッケージ化された3政策が決定されたのですが、日本国内では根室をはじめとする北海道全体への経済的打撃が大きく取り上げられることとなり、流し網漁禁止のみに注目が集まってしまったということです。またファベネックは流し網漁禁止を巡り、モスクワの目的が国家食糧安全保障の確立であるのと対照的に、カムチャッカ沿岸漁業者のそれが外部から訪れる流し網業者の排除であるといった、中央と地方の思惑の違いについても説明しました。
両名の報告を踏まえ、毎日新聞の本間浩昭記者がコメントを行い、その後の質疑応答も充実したものとなりました。 (ファベネック・ヤン)