北大スラ研拠点・スタートアップ会議が浜田(島根県立大学)で開催されました
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2016年5月28-29日、島根県立大学浜田キャンパスで人間文化研究機構「北東アジア地域研究推進事業」の北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター拠点のスタートアップ会議が開催されました。本会議は「北東アジア地域研究の挑戦」と題し、この地域特有の歴史、アイデンティティ、地域的課題と二国間・多国間の協力の可能性について議論することによって、「北東アジア」に注目する意義とその方法論について考察することを目的としていました。
第一日目は、本田雄一島根県立大学学長と田畑伸一郎北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター長の講演で幕を開け、続く講演「北東アジア地域研究の挑戦と課題」では、和田春樹東京大学名誉教授によって問題提起がなされました。同講演では、1990年代から現在までの間に国家レベル・地域レベルで提起された地域枠組みや共同体の歴史を振り返り、「東アジア」と「北東アジア」の地域構成について述べられました。さらに、北東アジア地域の安全保障上の課題として、北朝鮮問題、中国の台頭と国家体制のあり方、伝統的二国間同盟網から新たな地域安保機構への移行などが挙げられました。また、歴史認識と過去の植民地支配や戦争中の犯罪行為に対する謝罪、保障、そして和解の模索という課題についても触れられました。同講演では他に、北方四島、竹島、尖閣という地域の領土問題の違いについて説明されたほか、新たな協力の可能性として、災害緊急援助問題、環境問題、海洋の利用、流民・難民のネットワークなどが取り上げられました。
和田名誉教授による問題提起を受けて、井上厚史(島根県立大学北東アジア地域研究センター長)、岩下明裕(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授)の両拠点リーダーによって研究報告が行われました。井上センター長からは、北東アジア地域において「近代化」がもたらした負の側面と正の側面について宇野重昭の思想を振り返りながら説明がなされました。岩下教授からは、国際関係論の観点に立ったこの地域の特徴として、①日米中ロの大国間関係で動いている、②四大国間のパワーバランスがサイクルを形成している、③反システム運動がないことによって、他地域と比較した時にPost-Cold War Peaceが成立しているように見える、というやや挑戦的な見方が提示されました。これら二つの報告は、各メンバーからのコメントや批判で締め括られました。第二日目は、濱田武士北海学園大学教授による講演「北東アジアの海をめぐる国境漁業の現状」が行われました。濱田教授からは、国境エリアにおける日ロ(日ソ)、日韓、日中、日台間の漁業交渉の経緯の比較と、国連海洋法批准後の日本近海エリアにおける相互入漁の問題について概観する講演が行われました。これを受けて、続く座談会では、濱田、和田、岩下教授に加え、西野正人元日本海かにかご漁業協会会長理事、安達二朗浜田市水産業振興協会参与という現場を熟知する登壇者を迎え、「海」のなわばり争いを議論する際の罠、領土問題と漁業者の権利の問題の矛盾、日韓漁業交渉の内実など、島根・鳥取という地域から見た際の北東アジア地域の「対立」と「協力」について活発な議論が行われました。
二日間の議論を通じて、国家の統制が比較的強い地域において表面化しない人と物の動きをいかに可視化・言語化するのか、あるいはすでに高度な経済関係が形成されている諸国で構成される地域に自由貿易協定や多国間枠組みを作る必要性があるのかどうかなど、今後北大拠点が取り上げるべき課題や方向性が明確になったと言えます。 今回の会議は北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター拠点のメンバーが企画し、同じく拠点の一つである島根県立大学北東アジア研究センターの強力なバックアップによって、地域的特色が反映されたプログラムとなりました。また、二つの拠点のコラボレーションに加えて、人間文化研究機構総合人間文化研究推進センターの小長谷有紀副センター長と国立民族学博物館の北東アジア地域研究事業中心拠点のメンバーの参加を得たことにより、ディシプリンを超えた「北東アジア地域研究」のテーマや課題について各メンバーが意識を巡らせる機会にもなりました。
(文責・加藤美保子)