10月6日UBRJ / NIHUセミナー「北方領土問題:日ロの認識と関係を問 い直す」速報
2016年10月6日 文責・加藤美保子
2016年10月6日、モスクワ国際関係大学からドミトリー・ストレリツォフ教授をお迎えして討論形式のセミナー「北方領土問題:日ロの関係と認識を問い直す」が開催されました。12月15日に山口県で予定されている安倍首相とプーチン大統領の会談を控えて、会場となったスラブ・ユーラシア研究センター大会議室は聴講者とマスコミ関係者で満席になりました。
セミナーでは最初にストレリツォフ教授から最近の日ロ関係における動きと、将来的に北方領土問題を解決するシナリオについてご講演いただきました。昨年末の段階では見られなかった2016年の新しい動きとして、ロシアのアジア政策において日本の地位が飛躍的に高まったことが指摘されました。この背景として、2014年から続く経済制裁の下、欧米諸国に代わる最優先のパートナーとして中国の優先順位が高まっていましたが、貿易や金融面で期待していた役割を果たさなかったこと、またガス価格交渉において中国が優位に立つことへの警戒感が深まったことが挙げられました。9月にウラジオストクで開催された東方経済フォーラムへの安倍首相、朴大統領の出席と両国との経済協議は、ロシアのアジア政策のなかで日本、韓国への傾斜が強まった象徴的な出来事として取り上げられました。
また、注目が高まる北方領土交渉の行方について、ストレリツォフ教授は理論的に考えうるシナリオとして以下の三つを提示しました。第一のシナリオは、56年共同宣言に基づく二島返還での決着に、プラスαとして、主権とは関係ない形でロシアから日本へのいくつかの優遇措置が提案されるというものです。第二のシナリオは、継続交渉です。つまり、具体的に進展を示すのではなく、現状維持で首相会談を行ってその状態が2017年に持ち越されるというもので、より現実的な見通しです。第三に、妥協が特定のレベルを超えられず、相互に受け入れ可能な解決策が見いだされないケースが想定されます。この場合は、問題を凍結して棚上げにすることになりますが、互いの国家権威を傷つけない形での棚上げ交渉が必要となることが指摘されました。 これに対し、岩下明裕教授からは、対ロ外交における安倍政権の姿勢と特徴についてお話しがありました。日ロ交渉は首相自身がイニシアティヴをとっている数少ない案件の一つですが、読売新聞(9月23日)の報道にあったように二島返還を最低条件とするならば、その理由を明言すべきであることが指摘されました。また、日本が引き摺っている「戦後」の問題である北朝鮮とソ連との関係を解決しなければ、日本外交は変わらないだろうと述べられました。
モダレーターからは二人の議論に対して、①2016年になって日ロ関係が両国の優先課題に浮上したのは国際情勢の変動によるものであって一時的な現象ではないのか、②韓国へのTHAAD配備に対し中ロは反対を表明しているが、ロシアの日韓接近は経済と安保を切り離すということなのか、③日ロ両国の交渉体制の温度差について、コメントがありました。 会場からも鋭い質問が集まり、熱気に包まれたままセミナーは終了時間を迎えました。
本セミナーの内容とは関係ありませんが、ラジオВЕСТИ FMでドミトリー・ストレリツォフ先生が日ロ関係について答えている番組をこちらから聴くことができます。(ロシア語)
http://radiovesti.ru/episode/show/episode_id/41795